熱があるのはうそだった。
話しかける私の声は届いている。しかし、ふとんの中の声が聞きとれない。
本音を言っているのに。
残念ながら、聞き取ることが出来ない。
店長からはユニフォームを持って、6時に店に連れてきてほしいと言うことを伝えると
ふとんから起き上がり、「海に行く」と言って部屋を出て行った。
また、海に行く。「俺なんて生きる価値がない」とまた下を向いて言った。
ユニフォームは洗濯機の中に濡れている状態で見つかった。
外はもう暗い。
店長に6時に行けないことを電話する。
相談会議にゆずりは学園に来ていた市役所の人に海に向かってもらった。
同居人の二度目の海への逃避行。
3人で探す。12月の海は寒い。風もかなり冷たい。波が荒れて白い飛沫が高い。
「前に海に飛び込んだ時、あなたたちの前で飛び込んだか?」確認する。
「はい。僕たちの前で飛びこみました。だから、ママさんに電話したんです」
彼に電話をさせたら、「切られました」と言う。
「生きている」
「彼にメールをしてください。風邪をひく。寒くなったから早くもどってこい。
ママさんたちは帰った」の3文を頼んだ。
6時35分、「戻りました。店長が嫌だったようです」と連絡が入る。
私たちは、店に向かっている。菓子箱を持って、客として入る。
店長に謝る。
店には、高校生が何人も働いている。みんな明るくてきぱきと働いている。
いつか、彼にもこんな笑顔で明るく働ける場所を見つけられるといいが。