料理も、パン作りも、会社勤めもすべて嘘だった。
「先生、今日はあまりうまく出来なかった」
「先生、結婚式は3月。」
「先生、今日のパンはうまく出来た。食べてください」
お茶の免許を持っています。
バイオリンが弾けるのは、さすがに疑問でしたが。
「すごいね」「美味しいね」いつも、彼を褒めていました。
嬉しそうに話してくれます。
それらが、すべて嘘だったと解って、だからどうしよう。
どのような顔で、彼に向き合ったらいいのでしょうか。
すべて、私に褒められたいという気持ちでの嘘だったのでしょうか。
褒めることが、彼を苦しめたのでしょうか。
誰からも、心から慕われたことはなかったのかも知れません。
心から、愛されたこともなかったかも知れません。
でも、私だけは信じてあげようと思う。
嘘の巨像の中でしか、自分が保てられない人なのだったとしたら。
騙されたままでいることが、本当にいいのかどうか。
でも、私は知らないままに。